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【今日の一句】58

胡萝卜 胡萝卜胡话 2022-03-02

 夕ぐれの時はよい時、

かぎりなくやさしいひと時。

黄昏的美好时光
无限的温柔时刻。

堀口大學(1892-1981)


『夕ぐれの時はよい時』

 

夕ぐれの時はよい時、

かぎりなくやさしいひと時。

それは季節にかかわらぬ、

冬なれば煖炉のかたはら、

夏なれば大樹の木かげ、

それはいつも神秘に満ち、

それはいつも人の心を誘う、

それは人の心が、

ときに、しばしば、

静寂を愛することを

知っているもののように、

小声にささやき、小声にかたる……


黄昏的美好时光,

无限的温柔时刻。

无所谓季节,

寒冬,暖炉旁,

 盛夏,树影中,

黄昏,总是透露着神秘,

牵动着人心,

有时,或是常常,

感到内心深处有个声音,

轻声着,耳语着,

对此刻静谧的爱意…

 

夕ぐれの時はよい時、

かぎりなくやさしいひと時。


黄昏的美好时光,

无限的温柔时刻。

 

(略)


Paul Klee


高校生の頃、一人の友人が私にこう尋ねた。
「数ある感情の中で、どの感情が一番好きか」と。
つまり、嬉しい、楽しい、美味しい、悲しい、惜しい、気持ちいい、優しい…その中で一つ選ぶならどれを選ぶ?と…。
 

上高中的时候,一个朋友问我:

 “在众多感情中,你最喜欢哪一种?”

 换句话说,喜悦、高兴、美味、悲伤、遗憾、愉快、温柔……你会选择哪一种?

 
ロマンチックな性格の彼は、休憩時間になるといつも私の席のところへやってきてそのような抽象的な質問をした。私はその質問に対し、なんと答えたか覚えていないが、彼の答えは今でもはっきりと覚えている。それは、「懐かしい」という感情だった。
 

性格浪漫的他,总是会在休息的时候来到我的座位边,问这些抽象的问题。我不记得自己是如何作答的,但却仍然清楚地记得他的回答。他说,他会选“眷恋”这种感情。

 

彼は、当時故郷から新興住宅地へ引っ越したばかりで、かつて住んでいた町をよく懐かしんでいた。さらに、その土地には彼の初恋の人も住んでいるらしく、より一層彼の郷愁を誘ったのだ。そのため、当時私はよく彼からその街(京都市大山崎市)の話をされた。
 

那时他刚从老家搬到新的住宅区,非常思念曾经居住过的小镇。并且,他的初恋似乎也住在那里,这愈发加深了他的思乡之情。因此,那个时候,他经常拉着我讲他故乡(京都市大山崎市)的事情。

 

その頃17歳であった私にとって、懐かしいという感情を感じるには若すぎた。そもそも懐かしいと感じる対象が不足しているのである。引っ越しをした経験もなく、恋愛経験もなかった私は、彼が強調する懐かしさというものが解せなかった。
 

然而当时只有17 岁的我,还没有成熟到能体会那种“眷恋”的感觉。说到底,大概是值得我怀念的对象太少了。那时的我既没有搬过家,也没有恋爱的经历,所以无法理解他常挂在嘴边的那种怀念之情。


Paul Klee

その後、何年もの年月が流れ、彼は結婚し、子供を授かった。そして、私は国を出た。高校時代は、あれほどしょっちゅうとっていた連絡も、月日の経過とともに減っていった。
 

时光荏苒,多年后,他结婚生子,我也离开了日本。我们不再像高中时那样频繁联络。

 

そしていつからか、わたしの心にも「懐かしい」という感情が芽生え始めた。あの頃は分からなかった感情が今ではとても分かる。帰国することさえ困難になった今となっては、日本にいた頃のすべてが懐かしい。
 

而不知从何时开始,当初不能理解的感情,悄悄地在我心底萌芽。现在的我已经品尝到“眷恋”的滋味了。如今,就连回国也成了一种奢望,我不禁怀念在日本时的一切。

 

故郷の商店街、かつての通学路、何気ない街角、部屋の窓から見える電車、夕暮れ時の神社、ひっそりとした夜の公園…、そんな当たり前の風景が今の私にとっては、限りなく懐かしいのだ。
 

家乡的购物街,曾经的上学路,不经意的街角,窗外驶过的电车,黄昏时分的神社,夜晚寂静的公园... 这些曾经是那么熟悉的风景,于现在的我来说,都成为了无限的眷恋。


Paul Klee

彼から、その質問をされて約20年が経った。いつか彼と再会する日が来るのだろうか。
その日が来れば、今度はこちらから彼に尋ねてみようと思う。
「数ある感情の中で、どの感情が一番好き?」と。
 

不知不觉间,朋友问我这个问题已经是二十年前的事了。我们还会再见面吗?

如果真有那么一天的话,这次要由我来问他,“所有感情中,你最喜欢哪一种?”


堀口大學

夕ぐれの時はよい時、

かぎりなくやさしいひと時。


黄昏的美好时光,
无限的温柔时刻。


翻译:晴天的小雨
校对:リオ

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